AWS VPC設計の考え方|構築・運用で迷わない判断ポイント

AWS構築

AWS導入やシステム更改の場面では、サーバーや監視だけでなく、ネットワーク設計の妥当性を説明できることが求められます。なかでもAWS VPCは、構成全体の土台になる重要な要素です。企業のクラウド利用は広がっており、2024年には80.6%の企業がクラウドサービスを利用しています。

一方で、CIDRやサブネット、接続方式などは後から見直しにくく、「この設計で本当に問題ないのか」「ベンダー提案をどう判断すればよいのか」と悩む方も多いのではないでしょうか。

本記事では、AWS VPCの基本構成を整理したうえで、設計時に押さえるべき判断ポイント、接続方式の選び方、通信トラブル時の確認観点までを実務視点で解説します。

こんな方におすすめ
・CIDRや接続方式の選び方で迷っている
・AWS VPCの基本は分かるが、設計判断に自信がない
・ベンダー提案の妥当性を自社で説明したい

テクノプロはAWSの構築から運用まで幅広く支援しています

Index

AWS VPCとは何か。まず“何を決める仕組みか”を理解する

AWS VPCの基本概念と構成要素

AWS VPCは、AWS上で論理的に分離された仮想ネットワークを定義する仕組みです。オンプレミスのネットワークに近い考え方で、IPアドレス範囲、サブネット、ルーティング、外部接続、通信制御を自社要件に合わせて設計できます。AWS公式でも、VPCはAWSリソースを自分で定義した仮想ネットワークの中で起動するための基盤と説明されています。

まず押さえたい構成要素は次のとおりです。

  • VPC:仮想ネットワーク全体の枠組み
  • サブネット:VPC内を用途別に分ける区画
  • ルートテーブル:通信の行き先を決める設定
  • インターネットゲートウェイ:インターネット接続の出入口
  • NAT Gateway:プライベートサブネットから外部へ出るための中継点
  • セキュリティグループ / NACL:通信制御の仕組み
  • VPCエンドポイント:AWSサービスへプライベートに接続する経路
  • VPC Peering / Transit Gateway / VPN:他VPCやオンプレミスとの接続手段

ここで重要なのは、VPCが単なるネットワーク設定画面ではないことです。実際には、どのシステムをどの範囲で分離し、どこまで外部接続を許可し、将来どのように拡張するかまで含めて決める領域です。

オンプレミスとの違いから理解するVPCの特性

オンプレミスのネットワークでは、物理機器の調達や設置が前提になります。一方、AWS VPCはソフトウェア的にネットワークを定義できるため、構成変更や拡張が比較的しやすいのが特徴です。ただし、柔軟だからこそ、初期設計の良し悪しが後続の運用や拡張に大きく影響します。

また、オンプレミスではネットワーク機器の設計と運用が一体で扱われることが多い一方、AWSではアカウント設計、IAM、監視、ログ、接続方式などと密接に関係します。VPCを単独で見るのではなく、クラウド全体設計の一部として捉えることが重要です。

AWS VPCで実現できるネットワーク設計の範囲

AWS VPCで実現できるのは、単なる閉域網の作成だけではありません。パブリックサブネットとプライベートサブネットの分離、マルチAZ構成、オンプレミス接続、複数VPC間接続、通信ログの取得、AWSサービスへのプライベート接続など、実務で必要になる設計の多くをカバーできます。

そのため、AWS VPCで問われるのは「作れるか」ではなく、「この構成で将来困らないか」です。たとえば、接続先が増えたときにルーティングが破綻しないか、拠点追加時にCIDRが重複しないか、障害時にどこを見れば切り分けできるか、といった観点まで含めて考える必要があります。

まず押さえたい基本用語

用語役割ひとことで言うと
VPC仮想ネットワーク全体AWS上のネットワークの土台
サブネットVPC内の区画用途別に分ける場所
ルートテーブル通信経路の制御どこへ送るかを決める設定
セキュリティグループリソース単位の通信制御インスタンスごとの門番
NACLサブネット単位の通信制御区画ごとの門番

AWS VPCは“作成”より先に“設計判断”が必要な理由

AWS VPCは“設定”ではなく“設計判断”である理由

AWSマネジメントコンソールを使えば、VPC自体は短時間で作成できます。しかし、実務で難しいのは作成操作ではなく、最初に何をどう分け、どうつなぎ、どこまで閉じるかを決めることです。特にCIDR、サブネット分割、接続方式は、後から見直すと影響範囲が大きくなりやすい論点です。

AWS VPCは、作成手順を覚えれば扱えるものではなく、将来の接続・運用・拡張を含めて判断する対象です。

アカウント設計とVPC設計の関係

VPC設計は、AWSアカウント設計と切り離せません。開発・検証・本番をアカウントで分けるのか、1つのアカウント内でVPCやサブネットで分離するのかによって、権限管理や監査、障害影響範囲が変わります。

そのため、VPCだけを最適化しても、全体として扱いにくい構成になる可能性があります。環境分離はアカウントで行うのか、通信分離はVPCで行うのかを整理し、全体最適の視点で設計することが重要です。

責任共有モデルと設計に与える影響

AWSでは、物理インフラや基盤設備の保護はAWS側が担います。一方で、セキュリティグループの設定、OS更新、アプリケーション、アクセス制御、構成判断などは利用者側の責任です。

つまり、通信制御が甘い構成や、将来拡張に耐えないネットワーク設計は、AWSではなく利用者側の設計課題です。国内では、クラウド利用企業の約60%が導入・構築・運用支援の全部または一部を外部委託しているとされており、設計レビューや第三者確認を活用するのは一般的な選択肢です。

AWS VPC設計では、CIDR、サブネット分離、AZ構成、通信経路、接続方式の順に判断すると整理しやすくなります。後から変更しにくい要素から先に確認することが重要です。

図1|AWS VPC設計で最初に確認したい判断フロー

AWSのVPC設計における注意すべきポイントは下記3点です。

  • CIDRは後から見直しにくい
  • 接続方式は将来構成に影響しやすい
  • 通信制御は構築後より設計段階で整理したほうが効率的

AWS VPCの基本構成と作成手順

VPC・サブネット・ルートテーブルの基本構成

AWS VPCの基本構成は、VPCを1つ作り、その中にサブネットを配置し、ルートテーブルで通信経路を制御する形です。一般的には、インターネットに公開するリソースを置くパブリックサブネットと、アプリケーションやデータベースを置くプライベートサブネットを分けます。

パブリックサブネットはインターネットゲートウェイに向けたルートを持ち、プライベートサブネットは直接インターネットへ出ない構成にするのが基本です。外向き通信が必要な場合は、NAT Gatewayを経由させます。

AWS VPCの作成手順

コンソールベースの大まかな流れは次のとおりです。

  1. VPCのCIDRを決めて作成する
  2. サブネットを用途別に作成する
  3. ルートテーブルを作成し、各サブネットに関連付ける
  4. インターネットゲートウェイやNAT Gatewayを設定する
  5. セキュリティグループとNACLを定義する
  6. EC2やRDSを配置し、疎通を確認する

ここで重要なのは、手順どおりに作れば正しい構成になるわけではないことです。サブネットを分けたつもりでも、ルートテーブルが適切でなければ意図しない通信が通ることがあります。

図2はVPC内でパブリックサブネットとプライベートサブネットを分離し、IGW・NAT Gateway・EC2・RDSの役割を整理した基本構成例です。どのリソースを外部公開し、どのリソースを内部配置にするかを判断する起点になります。

図2|AWS VPCの基本構成図

構成図で理解するAWS VPCアーキテクチャ

構成図を用意する目的は、読者に「何がどこに置かれているか」を一目で理解してもらうことです。特に、パブリックサブネットに置くべきものと、プライベートサブネットに置くべきものを視覚的に分けると、設計の意図が伝わりやすくなります。

具体的には、それぞれのサブネットの役割は以下のように整理されます。

  • プライベートサブネットは内部処理用
  • NAT Gatewayの有無で外向き通信の設計が変わる

AWS VPC設計で最初に見るべきCIDR・サブネット・AZの判断ポイント

CIDR設計を後回しにすると起きる問題

CIDRとは、VPCやサブネットに割り当てるIPアドレス範囲のことです。ここを曖昧に決めると、将来別VPCと接続したいときや、オンプレミスと閉域接続したいときにアドレス重複が起き、接続設計が難しくなります。

ありがちな失敗は、「まず小さく始める」ことだけを優先し、後から環境を増やしたときにアドレス余地が足りなくなるケースです。

将来拡張を見据えたCIDRサイズの決め方

CIDRサイズは、現在必要な台数だけでなく、将来の接続先やリソース増加を見込んで決めます。特に、別リージョン展開、複数アカウント運用、他VPC接続、オンプレミス接続を予定している場合は、重複しないアドレス体系を先に決めておくことが有効です。

パブリック/プライベート分離の目的と考え方

サブネット分離の目的は、単に外向けと内向けを分けることではありません。何を公開し、何を直接公開しないかを明確にし、通信の経路と責任範囲を整理することにあります。

マルチAZ構成を採用すべきケース

AWS公式では、本番アプリケーションに対し、複数AZでのサブネット作成が可用性と耐障害性の向上につながると案内されています。

一方で、すべての環境でマルチAZが必要とは限りません。停止許容時間や業務影響を整理し、必要な可用性レベルに合わせて判断することが大切です。

よくある過剰設計・不足設計パターン

実務でよくあるのは、将来を見越して細かく分けすぎるか、まず動けばよいでまとめすぎるかの両極端です。どちらも後の運用負荷につながるため、過不足のない設計が重要です。

VPC設計の初期判断チェックリスト
・他VPCやオンプレ接続でCIDR重複が起きないか
• サブネットの役割分担を説明できるか
• 可用性要件に対してAZ構成が過不足ないか
• 将来追加するシステムのアドレス余地があるか
• 障害時の確認ポイントが整理されているか

AWS VPCの通信経路とセキュリティをどう設計するか

IGW・NAT Gateway・VPCエンドポイントの役割と選び方

インターネットゲートウェイは、VPCとインターネットを接続するための出入口です。プライベートサブネットにあるリソースが外向き通信だけ必要な場合は、NAT Gatewayを使うのが一般的です。S3などのAWSサービスにアクセスする際は、VPCエンドポイントを使うことでプライベート接続が可能です。

セキュリティグループとNACLの違いと使い分け

セキュリティグループは主にインスタンス単位、NACLはサブネット単位で通信を制御します。役割が異なるため、どこまでをどちらで担うかを明確にしないと、障害時の切り分けが難しくなります。

VPCにおけるDNSと名前解決の基本

通信設計では、ルーティングやファイアウォール設定に目が向きがちですが、実務ではDNSや名前解決が原因で通信できないケースも少なくありません。設計段階でDNSの責任範囲を整理しておくと、運用トラブルを減らせます。

インターネットからの通信経路は、IGW(インターネットゲートウェイ)を経由してパブリックサブネットに接続されます。一方、プライベートサブネットから外部へ通信する場合は、NAT Gatewayを経由します。また、Amazon S3などのAWSサービスへのアクセスは、VPCエンドポイントを利用します。

図3では、これら3つの通信経路(IGW、NAT Gateway、VPCエンドポイント)を整理して示しています。

図3|AWS VPCにおける通信経路フロー図

通信できないときの原因と確認ポイント

通信できないときは、次の順序で確認すると整理しやすくなります。

  • ルートテーブル
  • セキュリティグループ
  • NACL
  • NAT GatewayやIGWの関連付け
  • DNS設定

VPCフローログを使った問題切り分け方法

AWS公式では、VPCフローログを使ってVPC、サブネット、ネットワークインターフェイス間で送受信されるIPトラフィックを監視することが推奨されています。通信が通らない原因がルートなのか、セキュリティ設定なのかを見極めるうえで有効です。

VPC PeeringとTransit Gatewayの違い

AWS VPCの接続方式は、接続先の数、拡張性、導入しやすさ、運用負荷によって適した選択肢が変わります。構成の“今”だけでなく“今後どう増えるか”まで見て選ぶことが重要です。

表1|AWS VPCの主な接続方式比較

接続方式主な用途向いているケースメリット注意点
VPC PeeringVPC間の直接接続接続先が少ない構成シンプルで理解しやすい接続数が増えると管理が煩雑
Transit Gateway複数VPC・拠点の集約多拠点・多VPC構成ハブ型で拡張しやすい小規模環境では過剰になりやすい
Site-to-Site VPNオンプレミス接続まず閉域接続を始めたい場合比較的導入しやすい帯域・安定性の要件確認が必要
Direct Connect専用線接続高い安定性や専用線品質が必要な場合一貫した接続品質を確保しやすい導入コストと設計難度が上がる

VPC PeeringとTransit Gatewayの違いと使い分け

VPC Peeringは、2つのVPCを直接つなぐシンプルな接続方式です。接続先が少ない環境では分かりやすい一方、VPC数が増えると接続関係が複雑になりやすくなります。

Transit Gatewayは、複数VPCやVPN、Direct Connect接続を集約するハブとして機能します。構成が大きくなるほど管理しやすくなりますが、小規模環境では過剰になる場合もあります。

VPNとDirect Connectを選ぶべきケース

オンプレミスとAWSを接続する場合、まず候補になるのがSite-to-Site VPNです。一方、高い安定性や専用線品質が必要な場合は、Direct Connectが有力です。

住友生命保険では、AWS Direct ConnectやVPCを含む構成で基幹系システムをAWS大阪リージョンへ移行し、インフラコストを15%削減したと公表しています(※1)。

※1参照: [AWS 導入事例: 住友生命保険相互会社]

構成が複雑化した場合の設計整理の考え方

接続方式を選ぶ際は、今の接続先だけでなく、将来の増え方まで想定しておくと失敗しにくくなります。今はシンプルでも、将来VPCや拠点が増えるなら、最初から運用負荷まで見据えて判断することが大切です。

AWS VPC設計で失敗しないために。レビューを依頼すべきケース

自社で判断できる範囲と難しい領域の見極め方

単一システムで、外部公開の有無も明確、接続先も少ない環境であれば、基本構成を理解したうえで自社判断できる場面はあります。一方で、複数VPC、オンプレ接続、マルチAZ、厳格なセキュリティ要件、将来の拡張を前提にすると、設計論点は一気に増えます。

設計レビューで確認すべきチェックポイント

設計レビューでは、見た目の構成図だけでなく、判断の根拠を確認することが大切です。とくに、次の質問に答えられるかを見ていくと、設計の妥当性を評価しやすくなります。

  • CIDR設計は将来拡張や接続増加を見込んでいるか
  • サブネット分離の理由を説明できるか
  • マルチAZ構成は要件に対して過不足ないか
  • 接続方式の選定根拠は明確か
  • 障害時の切り分け方法まで設計に織り込まれているか
  • セキュリティグループとNACLの役割分担が整理されているか

専門パートナーを活用するメリットと判断基準

国内では、クラウド利用企業の約60%が導入・構築・運用支援の全部または一部を外部委託しています。そのため、構成レビューや設計支援を外部に求めるのは一般的な選択肢です。

テクノプロは、AWS Partner Networkのセレクトコンサルティングパートナーとして、導入準備から設計、本稼働、運用まで支援しており、国内25,000人以上の技術者と2,555社との取引実績を公表しています。

また、AWS認定の全アソシエイト・プロフェッショナル資格に合格した講師陣による育成実績もあり、技術面だけでなく、現場での説明力や推進力を含めた支援体制が強みです。

こんな場合はレビュー相談がおすすめです

  • 提案構成の妥当性を社内説明したい
  • CIDRや接続方式の判断に迷っている
  • オンプレ接続や複数VPC設計が絡む
  • 通信障害時の切り分けまで整理したい

まとめ

AWS VPCは、AWS上で仮想ネットワークを作るための基本機能です。しかし実務では、単に作成できることよりも、CIDR、サブネット分離、AZ構成、通信経路、接続方式をどう判断するかが重要になります。

特に、後から変更しにくい要素は、導入時点で将来の拡張や運用まで見据えて考える必要があります。通信が通るかどうかだけでなく、なぜその構成なのかを説明できることが、VPC設計では大切です。

ベンダー提案や現行構成に不安がある場合は、判断軸を整理したうえで、第三者視点のレビューを取り入れることも有効です。自社で持つべき判断と、専門家に確認すべき論点を切り分けることで、手戻りや運用リスクを抑えやすくなります。

AWS VPC設計に関する資料ダウンロード・お問い合わせは、テクノプロまでご連絡ください。CIDR設計や接続方式、通信制御など、後から見直しにくい判断に不安がある場合は、専門エンジニアが構成レビューや最適化提案をご支援いたします。貴社に最適なクラウドネットワーク設計をご提案いたします。

監修者

テクノプロ・ホールディングス株式会社

ITエンジニアとして25年のキャリアを持ち、チーフマネージャーとしてテクノプロ・エンジニアリング社にて金融・商社・製造業など多業界でのインフラ基盤構築に従事してきた。2008年から2024年まで、オンプレミス環境でのストレージ・サーバ統合基盤の設計・構築を手掛け、特に生成AI・データ利活用分野のソリューション開発実績が評価されている。現在は技術知見を活かしたマーケティング戦略を推進している。