クラウドへの移行が完了したにもかかわらず、リリース速度や運用効率が思ったほど改善していないと感じていませんか。
また、「ネイティブクラウド」と「クラウドネイティブ」という言葉が混在し、社内説明や導入判断の前提を揃えにくいと感じている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、両者の関係を整理した上で、AWSでの実装例と移行・モダナイゼーションの進め方を具体的にご紹介します。
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ネイティブクラウドとは?クラウドネイティブとの関係を整理

ネイティブクラウドを検討する際は、まず用語の整理から始める必要があります。似た言葉が複数存在し、混同されやすいためです。
ネイティブクラウドとクラウドネイティブの意味
クラウドネイティブとは、クラウドコンピューティング環境を前提に、最新のアプリケーションを構築・デプロイ・管理するソフトウェアの考え方です。
「ネイティブクラウド」という言葉も、実務上はクラウドネイティブとほぼ同じ意味で使われることが多く、厳密に区別する必要はありません。本記事でも、両者を同じ概念として扱い、以降は「クラウドネイティブ」の表記で統一して解説します。
ただし、言葉の整理よりも重要なのは、自社のシステムが実際にどちらの状態にあるかです。AWSへ移行済みであっても、その多くはクラウドネイティブとは呼べない状態にとどまっています。
本記事では、その判別の仕方から順に説明します。
クラウド利用やクラウドリフトとどう違うのか
クラウドネイティブと混同されやすい言葉には、クラウド利用、クラウドファースト、クラウドリフトがあります。それぞれの違いを、以下の表で整理します。
| 用語 | 意味 | アプリケーションの状態 |
| クラウド利用 | クラウド上でシステムやサービスを使うこと全般を指す言葉 | サービスにより様々 |
| クラウドファースト | 新規システムの導入時に、クラウドを優先的に検討する方針 | 導入判断の指針であり、構造そのものは指さない |
| クラウドリフト(クラウド対応) | オンプレミスで稼働していたアプリケーションを、構造を変えずにクラウドへ移行すること | モノリシック(一体型)構造を維持したまま稼働 |
| クラウドネイティブ | マイクロサービスやコンテナなど、クラウドを前提とした技術で構築・運用すること | 機能ごとに分割され、疎結合な状態で稼働 |
表からわかるように、クラウドリフトはあくまで「移行の方法」であり、クラウドネイティブは「アプリケーションの構造や運用のあり方」を指す言葉です。この違いを整理しておくことが、次に説明する誤解を避けるポイントになります。
単なるAWS移行ではクラウドネイティブといえない理由
オンプレミスで稼働していたアプリケーションを、構造を変えずにそのままAWSへ移行する方法は、クラウドリフト(リホスト)と呼ばれます。
この方法は移行のスピードが速く、既存の仕様をほぼそのまま引き継げる点がメリットです。
しかし、アプリケーションの内部構造が一体型(モノリシック)のまま残るため、クラウドネイティブなアプリケーションのような柔軟性、回復力、拡張性は得られません。
つまり、AWSへの移行そのものは、クラウドネイティブ化の第一歩にはなりますが、それだけでは開発速度や運用効率の改善は限定的です。次の章では、その理由を具体的に見ていきます。

なぜクラウドネイティブ化が必要なのか
クラウドネイティブが注目される背景には、事業環境の変化に対応するスピードが、これまで以上に求められている点があります。
開発スピードや可用性が求められる背景
多くの企業は、顧客の要望に応じて迅速にサービスを更新できる、スケーラブルで回復力のあるアプリケーションを必要としています。
クラウドネイティブなアプローチでは、DevOpsや継続的な開発・リリースの仕組みを活用することで、機能更新のたびにサービスを停止する必要がなくなります。
また、利用が急増する時期にはリソースを柔軟に増やし、落ち着いた時期には縮小することで、コストと可用性のバランスを取りやすくなります。
既存システムをクラウドに移しただけで残りやすい課題
クラウドリフトでAWSへ移行しただけの場合、以下のような課題が残りやすくなります。
- 機能を1つ更新するだけでも、システム全体を再デプロイする必要がある
- 一部機能の負荷が高まった際に、システム全体をスケールさせなければならない
- 障害が一部機能で発生した場合に、システム全体へ影響が及びやすい
こうした課題は、アプリケーションの内部構造を見直さない限り解消しにくいものです。次の章では、クラウドネイティブ化によって得られる具体的なメリットと、あわせて注意すべき点を整理します。
ネイティブクラウドのメリットと注意点
クラウドネイティブ化には多くのメリットがある一方、導入前に理解しておくべき注意点もあります。
リリース速度と拡張性が向上する理由
クラウドネイティブアプリケーションは、マイクロサービスと呼ばれる小規模なサービスの組み合わせで構成されます。
各マイクロサービスは独立して開発・デプロイできるため、機能ごとに個別のリリースが可能になります。
また、負荷が高まった機能だけを選んでスケールさせられるため、システム全体を一律に拡張する必要がありません。
運用自動化とガバナンスを両立しやすい理由
クラウドネイティブ開発では、コードの変更を頻繁かつ安全に統合・リリースする仕組みを活用します。
こうした仕組みを整えることで、開発チームは変更のたびに手作業での確認作業を減らし、リリースの負荷を下げられます。
さらに、インフラの構成をコードとして管理する方法を組み合わせることで、環境ごとの設定差異を防ぎ、統制の効いた運用を両立しやすくなります。
導入前に注意すべきコストとセキュリティ
クラウドネイティブ化には注意点もあります。
- 運用の複雑化:サービスの数が増えるほど管理対象が増える
- セキュリティ管理範囲の拡大:サービスごとにアクセス制御や監視の設定が必要に
- ベンダーロックイン:特定のクラウドサービスに強く依存すると、他社サービスへの移行が困難に
これらの注意点は、事前に構成方針や運用ルールを整えることで軽減できます。次の章では、自社での導入判断に役立つチェックポイントを紹介します。
導入判断に迷ったときのチェックポイント
適しているシステムと慎重に判断すべきシステム
クラウドネイティブ化は、すべてのシステムに一律で適用すべきものではありません。以下の表を参考に、自社システムの特性を確認してみましょう。
| 分類 | 特徴 | 例 |
| 適しているシステム | 機能追加やアクセス数の変動が大きい | 顧客向けWebサービス、モバイルアプリのバックエンド |
| 慎重に判断すべきシステム | 変更頻度が低く、安定運用が優先される。または法規制で構成変更に制約がある | 長期間安定稼働している基幹業務システムの一部 |

投資対効果とリスクをどう評価するか
導入判断では、投資対効果(ROI:かけたコストに対してどれだけの効果が得られるかを示す指標)もあわせて評価する必要があります。
- 移行や改修にかかる初期コスト
- 運用の自動化によって期待できるコスト削減効果
- 開発スピードの改善によって期待できる事業上の効果
- 既存システムとの依存関係が引き起こすリスク
これらを整理することで、経営層への説明や社内稟議に使える判断材料が揃います。
必要な体制とスキルをどう整えるか
クラウドネイティブ化を進めるには、技術面だけでなく、体制づくりも重要です。
- コンテナやサーバーレスの実装スキルを持つ人材
- 継続的な開発・リリースの仕組みを運用できる体制
- 開発チームと運用チームが連携する文化(DevOps)
- 必要に応じた外部の専門支援の活用
社内のリソースだけで対応が難しい場合は、外部の支援を組み合わせることも有効な選択肢です。
AWSで実現するネイティブクラウドの代表構成
ここからは、AWSでクラウドネイティブなシステムを構築する際の代表的な構成を、用途別に紹介します。
| 構成 | 主なサービス | 適したケース |
| コンテナ中心 | Amazon ECS、Amazon EKS | 既存のコンテナ運用知識を活かしたい場合 |
| サーバーレス中心 | AWS Lambda、Amazon API Gateway | アクセス量の変動が大きい、イベント駆動の処理 |
コンテナ中心の構成:Amazon ECS・Amazon EKS
コンテナとは、アプリケーションと実行に必要なファイルを1つにまとめたソフトウェアの単位です。
- Amazon ECS:AWSが提供するコンテナオーケストレーションサービス。AWSに最適化された運用のしやすさが特徴
- Amazon EKS:業界標準のコンテナ管理ツール「Kubernetes」を、AWS上でマネージドに利用できるサービス
Kubernetesの運用知識があればEKS、AWSでの運用効率を重視するならECSが選択肢になります。
サーバーレス中心の構成:AWS Lambda・Amazon API Gateway
サーバーレスとは、サーバー管理をクラウド事業者に任せ、開発者がコードの実行に集中できる仕組みです。
- AWS Lambda:コード実行時に必要なリソースが自動的に用意される、AWSのサーバーレスコンピューティングサービス
- Amazon API Gateway:Lambdaと組み合わせ、サーバー管理なしで外部リクエスト用のAPIを構築できるサービス
アクセス量の変動が大きい機能や、イベント駆動の処理に適した構成です。
データ層の構成:Amazon RDS・Amazon DynamoDB・Amazon S3
データ層も、用途に応じて複数のサービスを組み合わせるのが一般的です。
- Amazon RDS:SQLを使った従来型のリレーショナルデータベースを、マネージドで運用できるサービス
- Amazon DynamoDB:サーバーレスで動作する、キーと値の形式を扱うデータベースサービス
- Amazon S3:画像や動画、ログなど大容量データを保管できるオブジェクトストレージサービス
1つのデータベースにすべての用途を担わせるのではなく、目的別にサービスを使い分けることが、クラウドネイティブなデータ層設計の考え方です。
運用を仕組み化して標準化する
クラウドネイティブなシステムは、サービスの数が多くなりやすいため、運用を仕組み化しておくことが欠かせません。
- Amazon CloudWatch:システムの稼働状況やエラーを監視・可視化するサービス
- 継続的インテグレーション/継続的デリバリー(CI/CD):コードの変更を自動的に検証し、安全にリリースする仕組み。AWS CodePipelineなどで構築できる
- インフラのコード化(IaC:Infrastructure as Code):サーバーやネットワークの構成をコードで管理する手法。AWS CloudFormationやAWS CDKで実現できる
これらを組み合わせることで、サービスの数が増えても、一定の品質を保ちながら運用を続けられます。
移行とモダナイゼーションの進め方
現状分析から始めるアプリケーション棚卸し
移行やモダナイゼーションを始める前に、まず既存システムの棚卸しを行う必要があります。
- システムの構成、依存関係、利用しているミドルウェアの整理
- 可用性やパフォーマンスなど、非機能要件の確認
- 変更頻度やビジネス上の重要度の整理
この棚卸し結果が、次に説明する移行戦略を選ぶための土台になります。
6Rで考える移行戦略と選定基準
AWSは、システムごとに適した移行方法を選ぶための考え方として、6Rと呼ばれる分類を紹介しています。
| 戦略 | 内容 |
| Rehost(リホスト) | 構造を変えずにクラウドへ移行する(クラウドリフト) |
| Replatform(リプラットフォーム) | 一部をクラウドサービスに置き換えるなど、最小限の変更を加えて移行する |
| Repurchase(リパーチェス) | 既存システムを、SaaSなど別の製品に切り替える |
| Refactor(リファクタ) | クラウドネイティブな構造に作り直す |
| Retire(リタイア) | 使われていないシステムを廃止する |
| Retain(リテイン) | 現時点では移行せず、現状のまま保持する |
すべてのシステムをRefactor(作り直し)で対応する必要はありません。システムの重要度や変更頻度に応じて、戦略を組み合わせることが実務上のポイントです。
PoCから段階的移行へ進めるロードマップ
移行戦略を選定した後は、PoC(概念実証:本格導入の前に、実際の環境に近い形で効果や課題を検証する取り組み)から始めることをおすすめします。
- 影響範囲が小さいシステムを選び、PoCで技術的な実現性を確認する
- PoCで得られた知見をもとに、移行の進め方や体制を見直す
- 優先度の高いシステムから順に、段階的に移行を進める

小さく始めて知見を積み重ねることが、移行を無理なく進めるための現実的な進め方です。
よくある質問
既存VMをAWSへ移すだけでもネイティブクラウドといえるか
既存の仮想マシン(VM)をそのままAWSへ移行する方法は、クラウドリフト(リホスト)に該当します。
この方法だけでは、クラウドネイティブなアプリケーションの持つ柔軟性や拡張性は得られません。詳しくは「単なるAWS移行ではクラウドネイティブといえない理由」をご覧ください。
Kubernetesは必須か
Kubernetesは、クラウドネイティブ化に必須というわけではありません。
既に社内にKubernetesの運用知識がある場合はAmazon EKSが選択肢になりますが、運用のしやすさを重視する場合はAmazon ECSやAWS Lambdaといった選択肢も検討できます。
自社の体制やスキルに合わせて選ぶことが重要です。
まずPoCで確認すべき項目は何か
PoCでは、以下のような項目を確認することをおすすめします。
- 想定する構成が、既存システムの要件を満たせるか
- 移行にかかる作業量やスケジュールの見通し
- 運用担当者が新しい仕組みを扱えるか
まとめ:自社に合ったクラウドネイティブ化を段階的に進める
ネイティブクラウドとクラウドネイティブは、実務上ほぼ同じ意味で使われる言葉です。重要なのは言葉の区別ではなく、自社のシステムが現在どの状態にあるかを見極めることです。単なるAWS移行(クラウドリフト)だけでは、開発スピードや運用効率の改善は限定的にとどまります。
開発スピードや運用効率を高めるには、アプリケーションの構造や運用体制まで含めた段階的な改善が必要です。まずは既存システムの棚卸しを行い、6Rの考え方を参考にしながら、優先度の高いシステムからPoCを通じて進めることをおすすめします。
一方で、モダナイゼーションを難しくしているのは技術選定そのものではありません。どのシステムから着手するか、どこまで作り替えるか、既存の運用を止めずにどう移行するか——こうした判断には、現行システムの構造を読み解く力と、実際に作り切った経験の両方が求められます。社内のリソースだけで進めようとして、PoCの段階で止まってしまうケースは少なくありません。
テクノプロは、AWSセレクトティアサービスパートナーとして、AWS認定資格3,000件以上の保有実績を持つ技術者集団です。ご支援の形は、大きく3つからお選びいただけます。
- 請負・準委任:チーム体制で、現状の棚卸しから移行戦略の策定、PoC、モダナイゼーションの実装までを一括してお引き受けします
- 技術者派遣:コンテナやサーバーレスの実装経験を持つ技術者がプロジェクトに参画し、自社チームの一員として開発を推進します
- 技術者教育:AWSトレーニングパートナーとして、新しい構成を自社で運用していくための人材育成を支援します(年間1,000人の育成実績)
「どのシステムから手をつけるべきか整理したい」「PoCの進め方から相談したい」という段階でもご相談いただけますので、お気軽にご連絡ください。
監修者

テクノプロ・ホールディングス株式会社
チーフマネージャー
中島 健治
2001年入社
ITエンジニアとして25年のキャリアを持ち、チーフマネージャーとしてテクノプロ・エンジニアリング社にて金融・商社・製造業など多業界でのインフラ基盤構築に従事してきた。2008年から2024年まで、オンプレミス環境でのストレージ・サーバ統合基盤の設計・構築を手掛け、特に生成AI・データ利活用分野のソリューション開発実績が評価されている。現在は技術知見を活かしたマーケティング戦略を推進している。


